うーさん日記

無職.comにて日記をつけておりましたが、無職でもないのでこちらに引っ越すことにしました。介護職なのですが、独特の介護感をメインに書いていきます。

面会

今日は、2組の面会者が来られた。そのうちの1組の話。


 四郎丸良子(仮名)、特養に入所して7年、現91才。耳が遠く、目もあまり見えていない。表現したい言葉そのものが見つからず、話がまとまらない。こちらのいっていることも理解できず、意思疎通はほぼ不可能だ。


 ほとんどの時間ををうとうと過ごす。あまり邪魔はしない、それが彼女の日常なのだ。それでもお茶とかおやつとかそういった時間帯は、彼女を僕らの世界に引きずり出さねばならない。僕はしゃがみこんで、目線を彼女の顎より低い位置に持っていく。そして気づかれないように彼女の肩を軽く叩き「良子さん。」と声をかける。魔法のルーティンワーク。彼女は、気がついて、嬉しそうに「あら、まあ・・」と笑う。そして堰を切ったように語りだす。何をいってるかはさっぱりわからない。ところどころ聞き取れた単語を「〇〇ですね。」と返しながら、彼女が気持ちよく話していけるよう相槌を入れていく。話し終えると彼女は満足そうにもう一度笑い、そして僕の身体をさすり出すのだ。


 彼女がコミュニケーションをとるために必要な諸機能はすでに壊れ始めている。コミュニケーションをとるのは難しい状況だ。しかし、彼女はコミュニケーションを拒まない。拒んでいるのは我々だ。話をすることがないから、何を話していいかわからないから、話がまとまらないから。ただ聞いてあげさえすればいいのに。誰かがそばにいるだけで安心するということはあるだろう。彼女が人を欲しているのは明らかだ。僕らはそれに応えていかなければならない。


 四郎丸良子さんの息子がやってきた。年に数回訪れる。良子さんに会いに来たというよりは、書類上、支払い上の理由で施設にやってきたというほうが正解か。受付から、四郎丸さんの息子がやってきたとの連絡が入る。僕は魔法のルーティンワークを用いて彼女を覚醒させる。彼女は嬉しそうに笑い、そしてとりとめのない話を始める。そこへ息子がやってきた。彼女はまだ上機嫌に喋り続けている。息子にうまくバトンタッチできた。そう思った。


 息子は一言も発しない。相槌もない・・彼女は話すのを止めた。沈黙の時間、大切な二人の時間は静かに過ぎていく。間に割って入るべきか・・推し量る。わからない。僕は二人がどのようなかかわりをして生きてきたかを知らない。沈黙の会話なのかも知れない。息子は何を考えているのだろうか。若い頃の母を思い返しているのか・・やがて彼女は、うとうと傾眠にはいった。息子は立ち去った。彼女に声をかけることもなく。


 何を話したらいいかわからなかったのか、何をいっているかわからないから聞く気も持てなかったのか。ただ、感じて欲しかった。彼女が人を欲しているということを。僕が相槌を打ってやるべきだったか。そうすれば、彼女が楽しそうに話す姿をもっと息子に見せることができたのに。やるべく業務があったのでそちらを優先した。後悔した。


 次回は、もっとうまくやろう。

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